第5章 企み【無神コウ】
『あ〜、結構汚れちゃったね…大丈夫?』
汚れを拭きながら心配そうに名前の顔を覗き込む。
コウの整った顔に見つめられると、つい目を逸らしてしまう。
「だっ、大丈夫だよ…」
しかもさっきからこぼれたスープを拭くコウの手が、
名前の胸に当たっているのだ。
にわかに心臓の鼓動が早くなる。
「もう、大丈夫だから…っ」
恥ずかしでつい、強がってしまう。
『でもさー、これ、早く洗わないと…エム猫ちゃんもそんな服着てるの気持ち悪いでしょ?』
コウが名前の顔を覗き込んだまま、心配そうに言う。
「あ…じゃあ、私着替えてくるから…」
コウの顔も見ずにそそくさとイスから立ち上がる。
『あ、オレも行くよ…その服、早く洗った方がいいって!』
コウも立ち上がり、名前の腰を後ろからふわっと抱いた。
「…っえ?」
背中にコウの体温を感じる。
腰に回された手の感触にドキッとする。
そのまま名前の耳元に顔を近づけて、コウがいたずらっぽく囁く。
『はーやーく?じゃないとそれ、シミになっちゃうよ?』
「…っ?!、あ…」
『こうしてオレがお風呂場まで、エスコートしてあげるからさ?』
二人で廊下を歩く。
コウの片手がふんわりと名前の腰に回されている。
ーーなに…?!これっ…!?
心臓バクバクなんだけど…!
名前の心臓は大きく波打っている。
その振動がコウに伝わらないかビクビクしながら、この状況に身を委ねた。
ーー私がコウ君のこと好きだってバレたら恥ずかしいもんね…
そもそもコウ君はきっと私のことなんてただのエサとしか思ってないだろうし!
などと考えていたら風呂場に着いた。
脱衣所でコウと二人きりなんて、初めてだ。