第14章 喪失
『優姫、すまない。無駄だとわかっているが、苦しまないでくれ。私が望んだことの結果だ。』
優しい声に堪えきれずに涙が溢れた。
押さえつけられた腕が引きちぎられても構わない!
力の限りにもがく身体を3人の男が乗り上げるようにして押さえる。
『やめてっ!放してっ!橘さんっ……お願いっ!!やめて…………』
優姫の絶叫が響く中、橘は小瓶の中身を仰ぐようにして飲み込む。
覚悟していたことだ。
長い間自分の為にと暴力に耐えてきた彼女を自由にするためならば、この命を差し出しても構わないと思った。
出来ることなら彼女をこんな風に苦しめない方法を取りたかったが間に合わなかった。
屋敷を出て自由になった優姫は年頃の女の子らしく整えた髪に清潔な服を着ている。
それだけで彼女はこんなにも美しい。
旦那様の色欲から守るためと、女の子のささやかな楽しみすら奪っていたのだと改めて不憫に思う。
せめてこれからは幸せだと、楽しいと感じる生き方を……
人形の様に心を閉ざして生きることがないようにと祈ることしか出来ない。
喉と臓腑を焼かれる苦しみに悶えながらも橘は切に願いながら命を絶った。
『いやぁぁぁぁーーーーー!!!』
絶叫した後優姫の身体からガクンっと力が抜ける。
動かない優姫に押さえつけていた男たちが戸惑いながら手を放す。
『何だ、ついに壊れたか?』
ニヤニヤと笑いながら橘の亡骸を足先で突いていた若様が優姫を見る。