第14章 喪失
試験の合格発表を確認して私は西園寺家に戻った。
橘さんはあれから大丈夫だったかな?
屋敷に入ると客間に通されて数十分が経つ。
これからどうなるんだろう?
不安に震える身体を何とか留まらせて座り続ける。
人の気配が近づいてくる。
目の前の襖が開くと旦那様の後に忌々しい若様がいつもの下卑た笑い顔で続く。
最後に橘さんが顔を見せたところでため息が洩れた。
よかった、無事だ。
神経質そうな顔に深い眉間の皺は相変わらずだ……
ほんの数ヵ月離れていたけれど、ほっとした途端懐かしさが込み上げて涙が出そうになる。
『優姫、逃げ出した使用人は処罰される。知っているな?』
旦那様の声が静かすぎて不安になる。
殺されるだろうか……
『はい、知っています。私は罪を犯しました……拾って頂いた恩に反して逃げました。処罰をうけます。』
試験を受けることができた。
試験に受かることもできた。
それだけだって孤児の使用人の身分からしたらかなり大それた事をしたのだ。
このまま死んでも悔いはない。
覚悟を決めて真っ直ぐ旦那様を見る。
『恩に反して、か……。拾ってやった私に恩があると思うなら何でもできるな?』
『……っ!はい。』
優姫を見据える旦那様のゾッとするような冷たい目。
逸らすな、逸らすな……
『ならば必ずや死神になれ。』
地の底から響くような低い声が静かに響いた。