第14章 喪失
彼女との平穏な日々はすぐに踏みにじられるように壊れてしまった。
あの男が帰ってきたことで……
『今日は優姫ちゃん体調が悪いみたいです。後で薬を持っていこうと思うんですが……』
『珍しいな、きのうの夜は特に体調を崩しそうな様子は無かったが?……薬は私が持っていこう。あなたは普段の仕事をお願いします。』
女性の使用人から優姫の不調を聞いていてもたっても居られず自分で看病をすることにした。
起き上がれないほど体調が悪くなる前に何故気付いてやれなかったのだろう……
布団の中に埋もれるようにして眠っている華奢な身体。
瞳を閉じていると優姫は本当に幼い……
そっと額に手を当てれば思った以上に熱い。
『んっ……』
僅かに眉をしかめて身動ぎした後、その瞳が開かれた。
熱に浮かされて潤んだ瞳が妙に艶やかで、一瞬ドキリとする。
幼い少女に何を、と焦りながら食事をとって薬を飲むように促す。
しかし、身体を起こした優姫の様子がおかしい。
酷く歪んだ表情とぎこちない身体の動かしかたと、最近の屋敷のあちこちで聞かれるあの男の暴虐の数々に嫌な予感が走る。
強引に開いた着物の袷の中に広がる赤紫の痣、痣、痣……
この小さな身体をどれ程痛め付けた‼
怒りに我を忘れそうになる。
噛み締めた奥歯がギリギリと嫌な音を立てている。
殺してやる……
二度とこの屋敷に足を踏み入れられないようにしてやる‼
勢いよく立ち上がろうとした時、腕に触れた小さな手があまりに熱くてハッとする。