第14章 喪失
今年も真央霊術院の入学試験が行われる時期がくる。
あの荘厳な門を潜っていく者達を私は今年も羨望と絶望の瞳で見送るだけだ。
こんな気持ちを抱えたまま生きていくのなら、ここを逃げ出してしまおうか。
それで処罰されて死ぬのならそれも本望なのかもしれない。
ふと頭を過った考えを打ち消すように、目を瞑ってふるふると頭を振る。
今の生活だって幸せだ。
あの日死にかけていたことを思えば……
今は橘さんの仕事の助手までさせてもらっている。
使用人の大部屋から一人部屋まで与えられた。
十分すぎるくらいの待遇だ。
望んではいけない、いけない……
言い聞かせて、望みを絶たないといけない。
トントン、トントン……
控えめに部屋の扉が叩かれた。
深夜に一体誰だろう?
そっと扉を開ける。
『優姫、今すぐ屋敷を出るんだ。』
『橘さん?!』
圧し殺した声と、いつも冷静な橘さんが少し取り乱したように部屋に滑り込んでくる。
『金を用意した。これを持っていけ。』
ズシリと重たい布袋を押し付けるように手に持たせてくる。
『どうしたんですか?こんなこと出来るわけないです。バレたらとんでもないことになりますよ?』
『死神になるんだろう?……行け!試験に必ず合格しろ。そうすれば何とかしてやる。今はとにかく逃げて試験を受けろ。』
『っ!……どうして……』
『前に一度夢だと言っていたろう?時間が無い。すぐに行くんだ。』
でも、と渋る私を橘さんは引きずるようにして裏門から出してくれた。
そこから夢中で走って、走って……
朝がくる頃にはかなり遠い地区まで逃げていた。