第14章 喪失
時おり思い出したように痛め付けられる日々が続いた。
段々痛みを隠すのが上手くなった。
いや、痛みを感じなくなったのか……
暴力を浴びている時間は人形の様になれたらいいと自己暗示をかけていたせいかもしれない。
痛みにも憎しみにも、自分の感覚がどんどん鈍くなっていくのは解った。
心がどんどん冷えて、そのうち楽しいことや嬉しいことも感じなくなっていった。
笑えなくなったのはいつの頃からか……
只顔が綺麗な人形のような子だと他の使用人からも敬遠されるようになった。
橘さんだけが変わらず気にかけてくれる。
笑わなくなった私の心配をして、若様から何かされていないかと見張ってくれているみたいだった。
でも若様は必ず橘さんの目を盗んでは暴力を振るうのだ。
凍えた心を閉ざして自分を守るしかなかった。
そうして数年……
年毎に身体が成長した優姫は見た目が十四歳位になっただろうか。
その頃には人形の様に泣きもしない、悔しげに睨みもしない優姫に飽きたのか若様からの暴力もほとんど無くなっていた。
相変わらず夜の勉強を橘さんに見てもらっていたが、少し前から橘さんに服はできるだけ粗末なものを、顔は泥や煤で汚して、髪は前髪を伸ばして顔を隠せと言われていた。
休みの日には武芸の稽古を道場に通って習っていたが、その頃にはわかっていた。
この屋敷からはもう逃れられないのだ。
奴隷のように死ぬまでここに仕えるのだろう。
年頃になった私を橘さんは何とか先伸ばしにしようとしてくれているけれど、旦那様の妾になる日は近いのかもしれない。
それでも死神になるのを諦められず、希望にしがみついている。
そうしないときっと壊れてしまうから……