第14章 喪失
湿布と痛み止のおかげでその後はゆっくりと眠ることが出来、次の日から何とか仕事に戻った。
橘さんが遠くから時おり気遣わしげに見ていてくれる。
何だかくすぐったい気持ちになるのを顔に出さないように気をつけながら仕事をした。
こんな小娘が仕事と言っても大したことは出来ないのは解っている。
それでもこうして仕事をもらえて、食べることにも寝る場所にも困らない生活が出来る。
自分の体調が悪いことに気づいて声を掛けてくれる人がいる。
勉強を教えてくれて自分を気にかけてくれる人がいる。
幸せなことだと思う。
父親を亡くして、優しい死神のあの人の側から離れて、死ぬことも覚悟した日を思えば本当に幸せだ。
ここの人たちを大切にしたい。
数日は静かに過ぎていった。
身体の痛みもほとんどなくなった。
若様には会わないように離れには近づかず、夜に橘さんの部屋から出るときも気をつけていた。
何事もない日が続いて、もう大丈夫なのかも……と思い始めていた。
風呂の支度をしていた優姫は背中を思いきり蹴りつけられた。
呼吸も止まるほどの衝撃の中、しまった!と後悔でいっぱいになる。
ここは屋敷の端で時間によっては人気がない。
狙われた……!
『よう、そろそろ構ってもらいたくなってただろう?』
ニヤニヤと笑いながら見下ろす憎悪に染まった目にゾッとする。
『橘の野郎があちこちで目を光らせやがって、さすがに現場を押さえられたら面倒だからな。お前も橘に助けを求めてんじゃねぇぞ!黙って殴られて俺の気分をすっきりさせてりゃいいんだよ。おいだされてぇのか?』