第14章 喪失
『ただ、風邪を引いたとかではなさそうだ。何があった?』
『な、何も……ありません。』
十歳にも満たない小娘が上手に嘘をつけるはずもなく、オロオロと目が泳いでしまう。
『見せなさい……』
強引に割り開かれた着物の袷から胸と腹が露になる。
橘さんが息を飲む音が聴こえた。
俯いた先に見えたのは赤紫に変色した皮膚だった。
思っていた以上に酷い状態に言い訳が思い浮かばない。
『誰にやられた?昨日の晩は普通に勉強に来ただろう?その後か?』
『こ、転んで……』
『この屋敷で幼い子供にこんな無体な真似が出来る人間は一人だ。何を言われたか解らないが、優姫がこんな仕打ちを受ける必要は無いはずだ。言いなさい。若様だろう?』
全て解っているからと、優しく諭されて昨晩の事を話した。
すぐにでも若様に抗議しに行きそうな橘さんを必死にとめて、昨晩の事は自分が我慢すればいいから大事にしてほしくないと懇願した。
『多分、若様は橘さんのことを良く思ってないような気がするんです。私のことで橘さんがますます若様に恨まれたら、あの方は橘さんにも良くないことをしそうです。』
『そんなことは気にしなくていい。私が若様に何かされる様なことはない。』
『でもっ!心配です……橘さんは私の先生だから、何かあったら嫌です。』
頑なに懇願し続けると、ようやく橘さんが折れてくれた。
『わかった、今回の事は黙っている。次に何かあったらちゃんと言いなさい。今湿布と痛み止めの薬を持ってくる。お粥が冷めてしまったな、温め直してくる。』
『大丈夫です。コレをいただきます。橘さん、ありがとうございます。』