第14章 喪失
目を瞑り歯を喰いしばって蹲る優姫を冷たい目で睨みながら若様は蹴り続ける。
『はっ!声もあげずに耐えるか!?いい度胸だ。オラッ!』
何度も蹴られても優姫は声をあげなかった。
溢れる涙は止められなかったが、泣き叫びみっともなく許しを請うような真似はしたくない。
ここから追い出される訳にはいかない。
こんなヤツの下らない理由でせっかくこぎ着けた今の環境を手放してなるものか。
『ちっ!今日はここまでだな。これからはちょくちょく構ってやるよ。』
残された優姫は暫く動けずにいた。
背中や腹がズキズキと痛む。
骨や内臓に深刻なダメージはないものの、ひどい打撲にはなっているだろう。
痛みに呻きながらゆっくりと立ち上がる。
ふらつきながら歩いて使用人の寝起きする大部屋へ戻る。
みんなが眠る中を起こさないようにそっと布団に潜り込む。
食い縛った歯の間から呻き声が漏れないように手で押さえながら泣いた。
初めて物のように扱われた。
悔しさと憤りで目の前が真っ赤に染まったようだった。
怒りに震える心を必死で押さえた。
憎しみや怒り、悲しみはお前の霊力の封印を解いてしまう……
父親から繰返し繰返し聞かされた言葉。
霊力が解放されたら虚がやってくる……
父親の様に皆が殺される……
それだけは避けなければいけない。
ここには優しい人たちもいっぱいいるんだから……
優姫は声をあげずに、身体の痛みに一人で耐えながら夜を明かした。