第14章 喪失
『何でお前みたいな小娘がこの屋敷にいるんだ?』
冷たい、地の底から響くような声色だった。
明らかな嫌悪を向けられている。
『行き倒れているところを旦那さまに拾われました。』
事実のみを、震える声で何とか返答した。
『お前、橘に随分気に入られてるみたいだな……』
ギクリと身体が強張る。
若様が勘当された理由、財産の使い込みを見つけて旦那さまに報告したのが橘さんで、それからの二人に確執があるのは他の使用人から聞いていた。
どちらかと言うと若様の逆恨みでは……などと呑気な自分は気にしていなかった。
そうか、周りから見れば確かに自分は橘さんに特別に良くしてもらっているだろう。
橘さんと確執がある若様には気に入らないのか……
『特に気に入っているからということではないとっ……ぐぅっ』
身体が強い衝撃によって吹っ飛ばされた。
次に腹部に痛みがはしり、呼吸が止まる。
みぞおちの辺りを思いきり蹴られたとやっと頭が理解する。
痛みに蹲り動けない優姫の背中を若様が踏みつける。
大の大人の体重の乗った踏みつけに優姫の身体が床に崩れる。
『口答えしてんじゃねぇ。大声もあげるな、ギャンギャン泣きわめくようなマネをしてみろ、この屋敷に居られないようにしてやる。』
踏みつけられながら優姫は叫び出しそうだった声を飲み込む。
この屋敷から追い出されてしまえば今はまだ自分は生きていけない。
そしてこの若様のせいで何人もの使用人が屋敷を去ることになっているのも見てきた。
何をされても、どんなに辛くても今はまだここにしがみ付いて生き延びなければならない。