第14章 喪失
その後何日か優姫は立ち上がることも出来ずに布団で過ごした。
その間橘さんが色々と面倒を見てくれた。
ここは西園寺家という貴族の屋敷で、私を拾ったのはこの屋敷の旦那さまだということ。
橘さんはこの屋敷の家老で使用人を束ねる立場にある人だという。
忙しい筈なのに橘さんは寝ている優姫の元へ一日に何度も足を運んでくれた。
少しずつ優姫も橘に懐くようになっていった。
僅かな時間、優姫に訪れた穏やかな日々だった。
身体が元に戻ると少しずつ仕事を覚え始めた。
薪で火を起こして風呂を沸かしたり、掃除や洗濯の雑用が優姫の仕事になった。
『優姫、今夜は少し時間が取れそうだ。この前の続きをみてあげよう。』
『橘さん、ありがとうございます。では夜の後片付けが終わったらお部屋にお邪魔します。』
『わかった。しっかり仕事をしなさい。』
橘の後ろ姿を見送っているとそばにいた使用人の女性が話しかけてきた。
『今日も勉強かい?あんたは頭がいいからそのうちもっといい仕事をやれるようになるよ。』
『……っ、が、頑張ります……』
橘はいずれ役に立つだろうと言って仕事が終わった夜に時間が取れれば勉強を見てくれるようになっていた。
他の使用人も賢く仕事を覚えるのが早い優姫を可愛がってくれるようになった。
父親を亡くしたショックと卯ノ花から引き離されたことで笑顔を見せることはできなかったが、穏やかな時間は優姫の心を癒していった。
西園寺家に拾われて数ヶ月、優姫の穏やかな日々は儚く散ることになった。