第14章 喪失
『意識はあるな。熱はなし、怪我もないな。』
橘と呼ばれた男性は優姫の身体をあちこち調べているようだった。
触れる手は意外にも優しい。
『衰弱しているだけか……栄養を取って体力を戻すところからだな。』
今度は横抱きに抱えられてどこかへ運ばれていく。
広い屋敷だ。
置いてある家具や装飾品も高価な物だろう。
多分さっきの老人は貴族だ……
『暫くは私の部屋で面倒を診る。回復したらきっちり働いて貰うことになる。いいな?』
顔を覗き込まれていい聞かせられた。
優姫は僅かに頷いて返事をする。
取りあえずここに置いて貰える。
仕事をしてご飯が食べられる。
生きていける……
暫く運ばれてひとつの部屋に入る。
無駄が無く整理された部屋。
使い込まれた文机や書物がぎっしり入った書棚が父親と暮らした家を思い出させる。
父も書物が好きで、優姫にもよく読んで聞かせてくれていた。
優姫を下ろすと橘は押し入れから布団を引っ張り出して手際よく整えると優姫を寝かせてくれる。
久しぶりに布団に身体を横たえる。
ずしりと重りをつけられたように身体が重くなった気がする。
布団の心地よさに張り詰めていた優姫の気が緩んだ。
深い眠りに落ちそうな優姫の身体を橘がゆっくりと起こして支える。
『眠る前に少し水を飲め。暫く何も食べてなかったんだろう?起きたら重湯から腹に入れていかなきゃな。』
ひんやりとした水が美味しくて優姫はあっという間にコップの水を飲み干した。
その後は気絶するように眠りに落ちた。