第13章 虎の愛
くったりと力の抜けた身体を支えながら更木隊長は死魄装を丁寧に優姫に着せていく。
自分の死魄装はかなり着崩しているのにやけに手慣れていることに驚く。
「何驚いてやがる?昔のやちるので馴れてんだよ。」
ポツリと更木隊長がこぼした声はひどく穏やかだった。
そうか、やちるさんはまだ赤ん坊同然の頃に更木隊長に助けられて育てられたと聞いたことがある。
赤ん坊を四苦八苦しながらも甲斐甲斐しく世話をする更木隊長を想像するとなんだか心が暖かくなる。
袴の帯を締める手が優しくて……
ぽとり……
気づかず涙が落ちていた。
更木隊長の手が止まる。
そっと涙を大きな手が拭う。
「……どうした?」
穏やかな声に促されて目を上げれば優しい光を湛えた瞳が見つめている。
本当に私はどうしたんだろう……
こんなことを思うなんて……
「やちるさんが……羨ましくて……」
父を亡くした後、身寄りもなくさ迷っていた頃にもし、更木隊長に出会えてたら……
こんな風に毎日優しく大切にされてたのかな?
いや、それはないだろう。
私は平凡なただの子供だった。
やちるさんが羨ましいだなんて図々しい事を言ってしまった。
恥ずかしくて俯く。
「あん時な、子供のお前を欲しいと卯ノ花に言った。」
……っえ?
何のことかと首を傾げて更木隊長を見る。
まっすぐ穏やかな、でも真摯な瞳が揺らぐことなく見つめている。