第13章 虎の愛
黒崎一護との一戦の後、悔しさと強くなりたいという渇望に慟哭した。
やちるはいつものように静かに傍らにいた。
もっと、もっと強くなろうと互いに誓った。
その後暗く冷たい沼に沈み込んだ。
堕ちる……
どこまでも冷たい闇の深淵に……
俺ぁここまでか……
死ぬ覚悟はいつだってできている。
だから……そうか、と思った。
ふわり……
沈む身体が掬い上げられたような感覚。
温かい腕の中に抱き締められている。
懐かしい感覚に胸が引き絞られる様に痛む。
気がついた時には更木で殺戮を繰り返していた。
暴力と貧困だけの世界。
それが俺の世界だった。
こんな俺にも母親はいたのか?
問うまでもない。
こうして懐かしいと思うそれは、母親の胎内、温かい腕だ。
幸せとはこういうものか……
感じたことのない安らぎ、心の棘が全て抜け落ちる。
生まれ変わった様な感覚で目を開けた。
そこにあったのは淡い翡翠の光の世界と、慈愛に満ちた女の顔……
優姫か……
スルスルと痛みが剥がれ落ちる様に消えていく。
俺が目を開けたことに気づいたのか優姫の瞳に僅かに安堵の色が浮かぶが、斬魄刀の力を緩めない。
ゆるゆると漂う様な感覚に包まれている。
優姫の斬魄刀の治癒の力、翠光か……
くだらねぇ事に霊力を使いやがってと思っていたが、こうしていると悪くねぇ。
再び目を閉じて溶けるような心地好さに身体を沈めた。