第12章 逢瀬
藍染は優姫を抱き上げると、以前は見回りの隊士達の仮眠場所だった建物を見つける。
今は古くなって使われていないが、当時使われていた布団くらいはあるだろう。
走るように、しかし優姫の身体に負担をかけないように運ぶ。
中に入ると埃の臭いはするものの、予想外にも綺麗な状態を保っていた。
押し入れを開ければ目当ての布団も何組か置かれたままになっている。
優姫を畳に下ろして手早く布団を敷く。
シーツは少し黄ばんでいるようだが贅沢は言えない。
急いで優姫を布団へ移す。
依然として彼女は目覚める気配も無く、その身体は冷たく、浅い呼吸を繰り返している。
そのまま事切れそうな状態に不安が募る。
霊圧が極端に小さくなっていたからと一応持ち出した霊力回復の丸薬を取り出す。
気休め程度にしかならないだろうが無いよりはましだろう。
藍染は自分の口に丸薬を含むと噛み砕く。
優姫の唇を指を当てて開かせると自分の唇を重ねる。
咥内の薬を少しずつ少しずつ舌の先にのせて口移ししていく。
飲み込めるだろうか?
こんな時なのに久し振りに触れる優姫の唇は目眩がしそうなほど甘い。
舌にのせた薬を出来るだけ奥に押し込もうと、舌を絡めるように動かしていく。
コクリ……
優姫の喉が動いたのがわかった。
残りの薬も舌にのせて何回も自分の咥内から優姫の口へと移していく。
なんとか全ての薬を飲ませることが出来てひとまずホッとする。
暫くすれば目覚めるだろうか?
布団の中に入れた優姫の手を握るとまだ驚くほど冷たい。
この身体を暖めたほうがいいだろう。