第12章 逢瀬
扉の前でまごまごと考えていたら気付かれてしまったらしい。
中から藍染隊長の穏やかな声が自分に向けてかけられた。
ドキンっと高鳴る胸に手を当てて静かに扉を開く。
「…少しだけ……お話をさせて頂けませんか…?」
寝間着姿で現れた自分に少し驚いたように目を見開く藍染隊長。
はしたないとは思いつつも慌てて言い募る。
「こ…こんな夜更けに、ご無礼は重々承知の上でお願いします…ね…寝ません!隊長の前で粗相のないようずっと起きてます!だからどうかーー…」
真っ赤になりながら懇願する雛森の肩に藍染が優しく自分の上着をかける。
「僕が無礼を理由に追い返すと思うのかい?日頃僕はそんなに冷たく見えているのかな、入りなさい。今日は大変な一日だったろう?落ち着くまでいつまででもいるといい。」
藍染は少し困ったように笑い雛森を部屋へ招き入れた。
畳に座らせるのもいけないからと自分の布団の上に座るように促して藍染は文机に向かう。
その後ろ姿を雛森が熱っぽい瞳で見つめる。
自分を落ち着かせるように藍染が阿散井の容態や今後の処遇を話してくれる声を聞きながら、雛森の胸に甘い想いが沸き上がる。
(今夜ここへ来て本当に良かった。あたしは貴方の下で働けて幸せです。藍染隊長…)
部屋に招き入れてもらえて甘い期待がなかった訳ではない。
いつか廊下で盗み見た彼女のように藍染隊長と肌を重ねることができたなら、女性として愛してもらえたら……
でも、今はこうしてその後ろ姿を見つめるだけでも幸せだ。
藍染の声をききながら雛森は幸せな夢の中へ意識を沈めていった。