第12章 逢瀬
幸いさっきの現場に駆けつけた隊士たちは追ってくる様子もない。
走る速度を僅かに緩めた時だった。
グラリと視界が歪んだ。
えっ!?何が……
そのままドサリと転んでしまう。
身体の力が抜けて動けない。
そういえば頭を強く打っていた。
今頃になって脳震盪でもおこしたのだろうか?
いや、今日は怪我人の治癒で霊力を使いまくっていた。
なんだ、ただの霊力切れか……
仕方ない、動けるようになるまではどうにもならないな……
優姫は霞む意識を感じてゆっくりと目を閉じた。
優姫が意識を手放してしまった頃、阿散井恋次副隊長の敗北を重く受け止めた護廷十三隊の総隊長山本が戦時特令を出していた。
それは、副隊長を含む上位席官の廷内での斬魄刀の常時携帯及び戦時全面解放を許可する……
つまり護廷十三隊の総戦力をもって全面戦争をすることを意味した。
その夜、雛森桃は一人部屋に待機しながらその日の出来事に胸を痛めていた。
学生時代からの級友の阿散井恋次の傷付いた姿。
多くの隊士が傷付き、明日からは自分も旅禍と対峙すればその刀を抜いて戦わなければならない。
自分はただ平和に過ごし、任務を遂行できればよかったのに。
そして昼間に会った日番谷隊長からの言葉を思い出す。
藍染隊長の身の危険を指す言葉……
三番隊には気をつけろ……
なんとも不安な気持ちを抑えられず、雛森は暗い廊下に出ると歩き出す。
かなり遅い時間であるにもかかわらずその部屋からは灯りが漏れて部屋の主が起きていることを知らせる。
普段から仕事熱心なその部屋の主はこうして夜も自室で書類の処理をしている。
他の隊長はもっと副官に仕事を回していそうだが、自分の上司はほとんどの仕事を自分でこなしてしまう。
もっと副隊長の自分に負担をかけてくれてもいいのに、と寂しく思うこともある。
「どうした、何かあったのかい?雛森くん。」