第11章 旅禍
「んっ……」
堪らず声が漏れる。
更木隊長は私を見下ろしてニヤリと笑う。
「今度違うとこも舐めてやるよ。」
獲物を見る瞳になってる……
戦いの中にいる時と似た雄の顔。
ゾクリと背筋を伝う痺れは恐怖じゃなくて、囚われる予感。
「剣ちゃん、せーくーはーらー!」
やちるさんの声にハッと正気に戻る。
いけない、見惚れてた……
「んじゃ一角んとこでも行くか。」
「そうだねー、優ちゃんも剣ちゃんの背中に掴まって。」
「いえ、私は……」
「頭打ってんだから、無茶してんじゃねぇよ。いいから掴まれ。こんなとこにお前を置いて行けるか。背中に掴まらないなら、抱き上げるぞ。」
ギロリと睨まれて慌てて背中に飛び乗るようにして掴まった。
私が乗ったのを確認すると更木隊長は凄いスピードで走り出した。
隣のやちるさんが私を見て内緒話をするように小声で話し出した。
「剣ちゃんと戻ったら、優ちゃんが倒れてたでしょ。剣ちゃん真っ青になっちゃって、優ちゃん連れて行かなかったの凄く後悔してたんだよー」
優しいでしょ?といたずらっ子のように笑うやちるさん。
本当に、更木隊長は戦闘になれば他を寄せ付けないけれど、普段は面倒見がよくて色々と気を回せる兄貴肌だ。
だから十一番隊の隊士達は更木隊長を本当に慕っている。
彼らは自分達を十一番隊とは言わずに「更木隊」と呼びあっている。
更木隊長の元で働けることに誇りを持っている。
そんな更木隊長ややちるさんが他の隊の私のことも身内のように大切にしてくれるのが嬉しくて、切なくて、暖かくて広い背中にそっと頬を寄せた。