第10章 愛を請う
「泣くな。私などの為に泣かないでくれ。」
髪に顔を埋めて囁く。
彼女はあまり笑わないが、私の前で時折見せるはにかんだ笑顔が可愛いと思う。
笑っていて欲しいのだ。
彼女の笑顔を見るだけで、この凍えた心が温まる気がする。
顎を掴み、俯く優姫の顔をあげさせる。
涙に濡れて赤くなった目。
震える吐息が漏れる唇にそっと口づける。
「今日の仕事はどうした?」
「……っ。今日は、自分の仕事が終わったので、ぐすっ……隊舎の雑務をしてたので大丈夫です。」
「そうか。」
優姫の手を取ると、転んだときについただろう傷から血が出ている。
「手当てをしよう。」
優姫を長椅子に座らせて桶に水を汲んでくる。
手についた泥と血を洗い流してやる。
痛いのか優姫が顔をしかめる。
改めて優姫の姿をみる。
「意外とそそっかしいのだな。」
笑いを堪えて呟くと、優姫も恥ずかしいのか真っ赤になる。
「これは、その、凄く慌てて走ったからで……」
口ごもって目を泳がせ始めた。
「ふっ……可愛いな……今日は、この後も付き合って貰おうか。」
優姫の手を取り立ち上がらせるとそのまま手を引き、六番隊舎を後にした。