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ジャンルごちゃ混ぜ短編夢小説

第1章 pdl


お泊まり(寒咲通司)

昔から豆電球の灯りは嫌いだった。
薄暗い部屋の中に、誰の影もないのが見えてしまうから。だからいつも電気を消して真っ暗な中で眠っていた。
「愛、電気消すぞ」
この部屋の住人の寒咲通司が短くなった煙草を灰皿に押しつけ照明の紐をひっぱる。カチカチと、2回。豆電球になったのを確認して通司さんはベッドの布団に潜り込んできた。私が先に壁際にいて部屋側を向いていたので、向かい合わせで寝転がる形になった。
通司さんは潜り込んだと同時に私の体を片手で引き寄せる。あ、目の前に、通司さんの顔が。
キス魔の通司さんには1日に何度も迫られているのでそろそろ慣れてもいいはずなんだけど、未だにこの顔が近くに来ると恥ずかしくなってしまう。キス自体には慣れたのだけど(それはそれでおかしいような……)。
目を閉じた通司さんの顔を眺める。薄暗い視界に慣れてきた目は通司さんの整った顔をはっきりと写しだす。
かっこいいなあ。どうしてこんな人が今私と一緒にいるんだろう。
地元の総北高校に入学して、校門前でサイクルジャージにダルそうなスウェットを着て自転車に乗っている人を叱咤激励している通司さんを見て一目惚れして、毎日毎日見に行って、好きな人が夢中になっている自転車競技に興味をもって、調べて調べて調べまくったらいつの間にか自分がハマっていて、気がついたら入部届けを持って自転車部の部室の前に立っていた。入部が認められてマネージャーとして働くことになった私は間近で通司さんを見て、さらに好きになって、大事なインハイ前に勢いで告白してしまって。でも今は自転車が大事だから、と断られて、泣いて、泣いて、それでも今、こうして私の隣に、通司さんが、いて。
「幸せだな」
「……ん、なんの話だ?」
小声で呟いたそれは、寝ようとしていた通司さんの耳に入ってしまったようだ。私は通司さんの着ているTシャツを掴んでキスをせがんだ。
「全く、愛も大概、キス好きだよな」
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