第3章 fate
士郎の墓は町の郊外にひっそりと建てられた。エゴで殺されたヒーローに対するせめてもの報いか、きれいな墓石にしっかりと彼が生きていた証が記されている。
一年が経った。日常のいたるところに士郎の残骸があって、最初は死んでやろうかと思った。でも、士郎がそれを許すはずがない。彼は最後の最後までお節介だったようで、共通の知人に私のことを頼んでいたらしい。毎日毎日違う人たちが私の世話を焼きに来た。
そのおかげもあってか、最近は笑えるようになってきた。人のことばかり優先して生きることを楽しめなかった士郎の分まで楽しんでやろうと決めたから。
だから今日はお礼を言いにきたんだ。
士郎のしたことは無駄じゃなかったよって。
――愛。
――君は馬鹿か。
――どけ。君が台所に立つと死人が出る。
――邪魔だたわけ!死にたいのか君は!!
高校生のころ、好きな人がいた。その人は私よりずっと背が高くて、10歳ほど年上で、戦いの中に身を置いていたのかいやに戦いなれした体つきで、端正な顔つきにも関わらずいつもその眉間にはしわが寄っていて。とても不器用な人だった。会うたびに皮肉ばかりを吐く口は、素直に「心配している」と言えなかっただけ。私を突き飛ばした腕は、「危ない」と引き寄せられなかっただけ。思えば、あの人はただ私のことが好きなだけだったのだ。
――好きだ。あの頃からずっと。
結局、衛宮士郎は、エミヤシロウは、あの頃から何も変わらなかったのだ。
死ぬまでも。死んでからも。
ただ、あいつは、あの人は、私のことが好きなだけだったのだ。
ぼろぼろと、ダムが決壊したかのように涙があふれてくる。あなたが消えていなくなってから流せなかった分が、あんたが死んでいなくなってから流せなかった分が、今すべてを思い出して、すべてが繋がって。
「シロウ、シロウ、」
あのね。
「私も、好きだよ」
今なら心から言える。
「あの頃からずっと」
君が隣にいるうちに気付ければよかったのに。
end