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ジャンルごちゃ混ぜ短編夢小説

第3章 fate


君がいなくなる前に見た月はとても綺麗だったよ(五次弓)

 高校生のころ、好きな人がいた。その人は私よりずっと背が高くて、10歳ほど年上で、戦いの中に身を置いていたのかいやに戦いなれした体つきで、端正な顔つきにも関わらずいつもその眉間にはしわが寄っていて。とても不器用な人だった。会うたびに皮肉ばかりを吐く口は、素直に「心配している」と言えなかっただけ。私を突き飛ばした腕は、「危ない」と引き寄せられなかっただけ。思えば、あの人はただ私のことが好きなだけだったのだ。

 大学を卒業してから私は後輩の衛宮士郎とともに海外へ渡り、冬木で培った魔術や戦いを生かして沢山の人を助けた。感謝されると士郎は「当たり前のことをしただけだ」とお礼を受け取ろうともしない。私はそんな士郎を誇りに思っていた。
 そんな慈善活動のようなものを始めて数年、士郎は高校生のあの頃に比べると変わった。身長が伸び、筋肉がついた。肌も褐色になり、髪の色もずいぶん白くなった。でも、人を助けるときの真剣な表情と人が助かったときのほっとした表情だけはあの頃のままだった。

 いつかこうなるんじゃないかと思っていた。反面、それは「いつか」で今ではないと思っていた。衛宮士郎が処刑されるらしいという情報が舞い込んできたのは、私が士郎と離れて買い物をしているとき。慌ててうわさを流している男に問いかけ、とある広場に案内してもらうと、そこには。そこには、捕らえられた士郎がいた。
 叫ぶ。
 走る。
 捕まる。
 暴れる。
 無意識だった。
「愛さん」
 あの頃とは比べものにならないくらい低くなった声で静かに呼ばれた。その声にぴたりと動きを止めたのも無意識だった。これが彼の声を聴く最後になると脳が理解していた。納得していないのは私の心だけだった。
 そうして、
「あのときあいつに会ったとき、こうなることは多分分かっていた」
「分かっていて抗った」
「でも無駄だったな」
「愛さん」
「愛さん」
「……愛、」
 嫌だ。呼ばないで。その声で。同じ声で。
「愛、」
 気付いてしまうから。
「好きだ。あの頃からずっと」
 あなたが好きだと。

 そして衛宮士郎は死んだ。
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