第5章 喪失と充実
紗織side
カチ、カチ……と秒針が音を立てる。
時刻は10時。…それも夜のだから、22時。
マンションの一階はロビーや自動販売機なんかがあるだけで部屋はない。
しかも帰ってくる人もバラバラだし、仕事で帰ってこない人さえいるから、誰もいなければ静けさは尋常じゃない。
管理人室のチェアに座り、することもなく窓ガラス越しにあっちを見つめて秒針の音だけに耳を傾けた。
部屋の中にいるよりも孤独感が大きい。
こうなったのも午前中の事があってで、神谷さんとのアレがたっつんにばれて呼び出しをされてるわけなんですが。
夜って言っても何時ぐらいに行けばいいかわからないし、誰かに途中で見つかるのも駄目だと思うとどうすればいいかわからなくて……。
あわよくば痺れを切らしたたっつんが午前中に来た時みたいに、こっちに向かってきてくれれば…とか考えて座ってるわけです。
が、いつまでも来ません。
……呼び出しといて、呼んだ側が迎えにくるってやっぱりしないよね。
行くべきなのかな……。
迷うこと五分、わたしの思考を途切れさせるように管理室内の設置電話に電話がかかってきた。
はて、こんな時間に誰が……。
「はい、もしもし。星寮管理人室ですが……」
『お前さ、遅いわ。いつ来んの?』
呆れたともいう声で言った電話の相手はたっつん。
え……⁉︎たっつん⁉︎
「鈴木さん!どうして電話を…」
『お前が来ないからだろ』
「そうじゃなくて、番号というか…どこから?」
聞いたわたしに、更に呆れたようにたっつんはため息を吐く。
『俺らの部屋全部の電話からかけられるし、そっちからもかけれっから。管理人のくせにそんなんも知らなかったの?』
ううっ…知らなかった……。