第5章 喪失と充実
『んなことより早く来いよ』
「わかりました……」
プツリと電話が切れて、数秒立ち尽くした。
今まで画面の向こうにいたはずの声優さんに、すぐに会うことができるのに……。
違う、嬉しさで心臓が鳴り止まないんじゃなくて、重々しくドロドロと何かが体の中を流れているような。
苦しいのに胸が締め付けられなくて、気持ち悪いのに……どこか満たされて行く。
たっつんの部屋は確か……。
引き出しから階数を調べて、たっつんの部屋に向かう。
エレベーターだと誰かに気づかれるかもしれないから、一応階段を使って。
にしても、疲れる……。
やっぱりエレベーターにすれば良かったかな…。
一段一段、疲れを紛らわすように大きく息を吐く。
「よいしょっと」
最後の階段を上って、たっつんの部屋の前の廊下を急ぎ足で歩く。
あれ、そういえば早く来いとか言われてたよね?
もしかして階段でかなり時間使ったんじゃ……。
ピンポン……♪
ガチャ
「鈴木さん、お待たせしました」
申し訳なさげに肩をすくめて、そっと視線を顔に向けてみる。
うわ!無表情……!
この顔絶対に怒ってる……!