第6章 過去の話
「施設にいた頃ね、ある日、実験室に連れていかれるの。そこでは生きたまま子どもたちの頭を開いて、脳を弄るようなことをしててね。そしたら大人がね、お前ならどうする、どうすればいい反応が出ると思うって聞いてくるの。わたし怖くって泣いて、こんなのやめてって言ったら、考えないと今度はお前を手術台に乗せるぞって言うの」
多分阿頼耶識の施術よりも酷いのだろうなということは三日月にもわかった。それを選べるほどの強さはなかなかないだろう。三日月だって好きで施術をしたのかと言われると100%そうとは言えない。
「それは怖いね」
「ううん……もっと怖いのはその後。そうしてわたしの意見を取り入れながら実験は続いて……2日3日と過ぎるとね、だんだん人間って慣れていくの。怖さがなくなって、それどころか上手く反応すると嬉しくなったり、失敗して動かなくなっても次はもっとって、そんな風にしか感じなくなるの。あの台に乗ってるのは同じ人間じゃない、みたいな……でも人間じゃなくなっていったのは、多分わたしの方だった」
膝を曲げて抱き込むようにしたフィアはぎゅっと閉じていた目を開くと天を仰いだ。
「だからお兄ちゃんは逃げようって言ったんだと思う。施設のコンピュータをクラッキングして、騒ぎに乗じて……お兄ちゃんは死んじゃって、わたしは生き残った。施設や子どもたちがどうなったのか、今でも怖くて調べられない…………そんな夢!」
最後に無理矢理付け足すとフィアは跳ぶようにバルバトスから下りた。