第6章 過去の話
「あれ?」
最近戦闘続きだったので鈍らないようにと入念な鍛練を行った三日月は自室に戻る途中に不審な人陰を見つけた。
不審と言っても部外者や侵入者ではない。大分前におやすみと挨拶をして部屋に行ったはずの少女だ。
その証拠に少女は寝間着姿で、といってもくたびれたTシャツとハーフパンツであるが、薄暗い廊下をふらふらと歩いている。夢遊病という言葉を知らない三日月だが放っておいても良いことはないだろうと判断して後を追いかけた。
声をかけなかったことに深い意味はなく、なんとなくしか言えない。
それでも少女は振り向くこともなく、迷うこともなくしかしふらふらと格納庫へ向かった。
(格納庫?)
突然何か閃いた、というのは少女には良く有り得ることだ。しかしそれなら作業着に着替えるなり上着を着るなりしないと、あの広い空間はさすがに冷える。
自分の上着は汗くさいだろうな、と思いつつもそのまま追いかけるとやはり愛機バルバトスの元へ向かっていた。そしてコックピットへ、と思いきや左足の上に腰かけると頭を固くて冷たい金属の脚に預けた。
「フィア?」
「ふわあああ!?」
思わず声をかけると少女は文字通り飛び上がって、それからこちらを見た。
「ミカくん!どうしたの?」
「それはこっちのセリフ」
「あはは、そうだよね」
力なく笑ったフィアの目元が赤いことに気づいた三日月は立ち去るのをやめて隣に腰を下ろした。それに少し驚いて、しかし触れずにフィアは自分の足元を見つめた。
「こわい夢を見たの。ちゃんと聞いてなくていいから、聞いてくれる?」
難しいことを言うなと思ったが、考えることが得意ではない三日月は最後の言葉だけ拾って頷いた。それに小さく礼を言ってフィアはゆっくりと読み聞かせるように語り始めた。