【進撃の巨人】 never ending dream R18
第23章 咽び泣く~決意~●
「おやすみ、エレン。」
そう言い残し、サラは牢屋を出る。
振り返ると、エレンは身動きひとつせず、額を押さえたまま困惑した表情を浮かべていた。
また何か良からぬ事を想像し、固まってしまっているのだろうとサラは思う。
鋭い瞳に牙を隠しつつも、心の中の中は、どこにでもいる普通の少年なのだろう。
サラは牢屋の扉を閉めようと、ポケットから鍵の束を取り出した。
「…団長。
俺、団長と前にどこかで会っている気がするんです。」
エレンが突然、思い出したようにポツリとそうつぶやいた。
サラは鍵を掛けようとしている手を止め、エレンへと視線を移す。
ベッドに腰を下ろすエレンの右手はまだ、先ほどサラが口づけた額を押さえたままであった。
「…もしかして、私は口説かれているのか?」
そう言いながらサラは、ふふっと柔らかに微笑む。
そんなサラの言葉に、エレンは「ち…違いますよ!!」と、慌ててベッドから立ち上がった。
「昔…俺がまだシガンシナ区で暮らしていた時…。
確かに団長を見たんです。
それは、調査兵団として壁外へ向かう団長ではなく、もっと…別の形で。」
そう必死に訴えるエレンの姿は、確かにサラの記憶の中にも存在していた。
あれは確か、5年前。
まだ2月だというのに、春の訪れを感じさせるような暖かい風が吹く午後。
自宅療養中であったモーゼスのもとを訪れた帰り。
“…美味そうな桃だな。”
“君にもあげるよ。”
背中に薪を背負った、凛とした緑色の瞳をした少年。
“いい匂い。”
邪心のない幼い笑顔。
今思えば、あの少年は確かにエレンであった。