第2章 かわいいひと(GS3 新名)
入学してすぐ、構内で派手に転んだことがあった。
旬平くんがどうしても、とオススメしてきたヒールの高いサンダルを初めて履いた日のことだった。
痛いわ恥ずかしいわで、穴があったら潜り込みたいぐらいの勢いだったけど、ひとつだけいいことがあった。
「大丈夫?派手に転んじゃったね」
その人は陽光を背に、ふわりと笑っていた。
「先輩!」
「あれ、バンビちゃん。今日講義は?」
「休講になっちゃって……。ここ座っていいですか?」
「ふふ、どうぞ?」
勧めてくれた椅子に腰を下ろしつつ、先輩を盗み見る。
今日もキレイ。どうしたらこんなにキレイになれるんだろう。
同じ人間とは思えないな。
あの時転んだわたしに声を掛けてくれたみっつ上の先輩。
ぶちまけた筆箱の中身とファイルから飛び出したプリントを一緒に拾ってくれて、今にも泣き出しそうなわたしの手を引き、ベンチで擦りむいた膝に絆創膏を貼ってくれた、優しくてキレイな先輩。
そんな先輩に憧れて、見かけるたびに声を掛けた。
先輩は嫌な顔ひとつせずに、いつも笑ってくれる。
その笑顔がキレイで、わたしはもっと憧れを強くしているんだけど。
ただ、何かの拍子に話した高校生のときのあだ名で先輩から呼ばれるのは、少し恥ずかしかったりする。