第5章 only you(GS2 針谷)
あれ、そういえば、俺は何であいつと知り合ったんだ?
再度浮かんだ疑問に、また頭を傾げた。
放課後、誰も居ねぇ音楽室でギター弾いてて、誰も居ねぇと思ってたから、家で弾くときみたいに滑るように指が動いて……。
偶然、音楽室の前を通り掛かったあいつがそれを聞いて、俺に声を掛けたんだった。
「すごい!」
とか、満面の笑みを浮かべながら、拍手までして。
俺はと言えば、俺しかいないはずの場所に知らねぇやつが現れた挙句、いきなりギターを褒めるんだからかなり驚いた。
こいつは、何だ?と。
ただ、ギターの演奏と自作の曲を褒められたのに、悪い気はしなかったけど。
確か、それがはじまり。
そんで、あいつが電話してきたのに繋がるんだな。
俺があいつの前で素でいられるのは、そんな出会いだったからか。
人前に出ると震える声も膝も、コードを押さえる引き攣った指も、あいつの前じゃ何ともない。
それだけじゃなくて、あいつが隣に居ると、あいつのボケた雰囲気につられるのか、緊張なんて感じもしないで、いつも以上に上手く歌えて上手く弾けてる気がする。
そんでもって、あいつに、俺の歌を、もっと聞いて欲しいと思う。
そんで、笑ってくれたら、あの鈴のような声で褒めてくれたら。
あれ?それって……
「……ッ、だぁぁぁぁッ!」
浮かんだ答えを、声を出して振り払った。
けど、これはもう。
声を出したくらいじゃごまかしきれるような代物じゃねぇ。
つーか、振り払う必要もねぇ。
俺は。
あいつを好きなんだ。
出掛けた帰りに寂しさを感じるのも、触れる指先に一喜一憂するのも、俺の歌で喜んでほしいと思うのも。
全部それで納得がいく。
「……やるじゃねぇか、ちくしょう」
思いも因らなかったけど、出ちまえばなんて単純な。
なんてことはない簡単な答えだ。
少し冷たい北風が吹いて、妙にスッキリとした頭に、メロディが浮かんだ。
「♪~♪♪、♪~」
口ずさむこのメロディが、曲になったら。
あいつにいちばんに聞かせてやろう。
俺だけを、俺しか見れないようにしてやるからな。
覚悟しとけ!
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恋に気付いたハリー。