第5章 only you(GS2 針谷)
「じゃあな!」
「またね、コウ」
only you
何度目かのデートの帰り道、家の前まであいつを送り、決まり文句を残して背を向ける。
ドアの音が聞こえたところで振り返って、あいつが家の中に入ったのを見届けてまた歩き出す。
あいつとのデートの帰りは、そこはかとなく寂しい。
ほんの数分前まで、左側にあった体温を感じなくなるから。
そこまで考えて、ふと我に返る。
あいつが居なくて寂しいなんて、俺は何を考えてるんだ。
あいつは天然で、鈍感で、ニブくて。
何の考えもなしに、ベタベタベタベタ俺に触ってくるようなボンヤリなんだぞ?!
寂しいなんて絶対ねぇ!
ただ、風が冷たいだけだ。断じてそうだ!
そこまで考え至って、首を傾げた。
そういえば、あいつとこうして出掛けるようになったのはどうしてだったか。
あれは……、知り合ってすぐか。
何でか知らねぇけど、あいつが俺に電話してきて、動物園だか遊園地だかに行こうとか言って……。
俺も何でかそれを了承して。
それが思いの外楽しかったんだ。
そんで次々来るあいつの誘いに乗って色んなとこ出掛けて。
そのうちに俺からも誘うようになって、あいつもそれを快諾して……。
不意に触れる、あいつの指先とかてのひらとか。
あいつが笑うと嬉しくなって。
そんで……。
ちょっと待て、オイ……。
これじゃ、俺が、あいつを……。
いや違う。断じて違う!絶対違う!
誰があんなボンヤリ……!
浮かんだ思考を、かぶりを振って追い払った。