第10章 旅館の夜
ちょっと強引だったかな……。
そう思いながら私は足音を殺して岩泉先輩がいる部屋に向かって歩いた。
一回部屋に入ったら、誰かいないか伺うのが怖くなる。
皆が確実に部屋の中にいる今がチャンスだ。
早足で廊下を進み、角を曲がったところで一息吐いた。
ここを曲がったらさすがに誰も気づかないよね。
自動販売機の隣にあったベンチに座って、とりあえず深呼吸。
部屋に来いとは言われても、きっと及川先輩や他の人もいるはず。
……いろいろ心配だなぁ。
胸をぎゅっと握った私の目の前を浴衣姿のあの人が通った。
「及川先輩?」
「え、シホ?」
部屋の近くだから当然なんだろうけど、びっくりした。
まさか岩泉先輩に会いに行く途中でこの人に会うなんて思わなかった。
「眠れないの?」
優しい笑顔で彼は微笑み不意にキスをしてきた。
外だとはわかっていても、軽いキスなら受け入れてしまう。
浴衣姿の及川先輩というのも相変わらずかっこ良くて、嫌になるほど似合っている。
そんな人が意地悪そうな顔もせずキスしてきたなら拒めるはずもないよね。
ベンチに座る私の上にまたがり壁に手をつくと、もう一度キスをしてきた。
柔らかい唇が触れ合う粘膜のようにくっつく押し付けるようなキスだった。
お互いに唇を離さないように押し付け合い、誰かが通るかもしれないのも気にせず数分間キスし続けた。