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短編集。

第1章 夏目漱石


「呑めないクチじゃなかっただろう?」

「少しなら、ね」

そう答えるとぐい飲みに日本酒が注がれ渡される。
月明かりに照らされて煌くそれはとても
美しかった。
一気にそれを煽れば特有の浮遊感に襲われる。

「結構キツイの呑んでるんだね・・」

「今日は弱いヤツだヨ。お前が弱くなっただけ
じゃないかネ?」

「そう言われると最後に呑んだのいつだろって感じ」

えへへ、と笑うとつられてかマユリの口角が少し上がった。
空いたぐい飲みに追加される酒、二度程煽って
空を見上げた。


「・・・が綺麗だネ」

「・・・・・」


返答に迷った。
聞こえなかったからどう返していいのか、というよりも
マユリの全てが幼馴染ではなく一人の男に見えたから。
長い沈黙が続き耐えられなくなったのは私だった。




「ねぇ、何が綺麗なの?」

「・・・・。」

「・・・・?」

「二度言わせるとは、ネ」

「ご、ごめん・・・聞き取れなくって」

そう素直に言うとマユリの顔が私の視界を占めて
それから真っ暗になった。


唇に感じる柔らかな感触。
優しく頭を撫でる大きな手。
心地よさにどれも抵抗する気など起きなかった。

「月が綺麗だネ。って言ったんだヨ」

そう囁く甘く掠れた声。
やっと意味を理解して私は狼狽する。


「百年目の・・百合のようですね」

そう答えるとマユリは驚いたような顔をして
それからクツクツと笑い出した。

「意味は言わなくても分かるようだネ」

「・・・・」

恥ずかしくなり俯く私を優しく抱きしめてくれる
マユリはもう幼馴染なんかじゃなくて

「・・っもう!」

“私達は長い遠回りをしてやっと今”

「意味が分からなかったらどうしようか考えてたんだが
無駄だったヨ」

「そこまで馬鹿じゃないもん。」

「どうだか」



「マユリ。“月が綺麗ですね”」

「“死んでもいい”ヨ」





“最愛の人を手に入れました。”
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