第2章 その名を呼べば
「……って、御飯と味噌汁じゃあるまいし、俺は何をやっているんだかなあ」
鶴丸は、部屋で盛大に頭を抱えていた。
調子が狂う。
どういう訳か、自分のペースに持ち込めない。
おそらくは真っ直ぐすぎる言葉に免疫がないからだろうと、そうわかってはいるが頭と感情は別問題で。
「主は、弱いのか強いのか……まったくわからん」
半分は、いや、ほぼ全て自分に問題があるのだが、余裕の無い己など認めたくないという些細な反抗は男の建前。
呟く言葉とは裏腹に、本音では悪くないなと何処か楽しむ鶴丸であった。
灯りを点していない室内で、汚れてしまった衣をぱさりと脱ぎ捨てる。
自分の耳に届く音と触れた時に感じる温度、そして内に芽生えた面倒な感情が、己の顕現化が夢ではないのだと実感させる。
薄闇に浮かぶ自分の白い腕を眺めながら、鶴丸は複雑な思いでいた。
この両の腕で何が出来るのか、と。
主の傍へと願った実体を手に入れた今、現実に出来る可能性の広がりと共に、反対に手の中に入れることが出来るものが限られてしまったのではないかと矛盾に感じる恐ろしさ。
まだ始まったばかりの新しい日常は、同時にその終末へとカウントダウンを開始する。
そう考えてしまうのは、繰り返してきた記憶の為す悪戯だろうか。
「ほんと、厄介なものだぜ……」
零れた言葉が、足元の脱ぎ捨てた衣に落ちる。
視線の先、地に着く脚は確かにそこにあって、己の立ち位置を確認することが出来る。
だったら間違わなければ良いのだと、まだ何も見えない先を見通すように宙を見上げ、踏みしめる脚に力を込めた。
新しい真白な衣に腕を通せば、脱ぎ捨てた弱さは静かに奥に閉じ込めて、いつもの自分へと切り替え部屋を出る。
主の待つ場所へと、ただ真っ直ぐに――――