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【刀剣乱舞】 最果てに見る白 

第2章 その名を呼べば




「主……まさか、脱がしてくれるのか?……なんてな」


軽く笑みを浮かべながら、鶴丸はやんわりと自分の袖を掴む美桜の指を解く。
さらりと乾いた布の感触が離れていく瞬間、僅かに美桜の表情が曇った。
何かを言おうとするが言葉を上手く綴ることが出来ないのか、唇だけが微かに震えては耐えるようにきゅっと引き結ばれる。

鶴丸は目を細め柔らかくその様子を見つめながら、数度美桜の頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「美味いのをよろしく頼むぜ、主。
空腹すぎて、まったく……鶴が鶴らしく恰好良く舞うことさえ出来ん」


そういって白い上衣をふわりと宙に翻しながら軽やかに身体を一回転させて、美桜から距離をとる。


「……ほらな」


にやりと不敵な笑みを浮かべる鶴丸が、彼の発した言葉とは違いやはりどこまでも美しくて。
どんなに薄汚れてしまっていても、どんなに軽口を叩こうとも、きっとこの方の尊さは損なわれることはないのだと確信させる。


「鶴丸様……有難うございます」


思わず告げた言葉は美桜の本心であって、少しも飾り気のない真っ直ぐな言葉なだけに、鶴丸は一瞬言葉に詰まった。

礼を言われることなど何もないのに、自分はあくまで主の刀剣として当たり前のことしかしていないと思うのに、と。

そして今、自分が気付いた主の初歩的な間違いに、ああ、と納得をしてしまう。


「なあ、主。主は俺の主なワケであって……」


そう切り出しながら美桜の方を窺えば、きょとんとした表情が如何にも心の内を表していて、笑みを誘う。
しかし、自分の切り出し方も上手くはなかったなと、己の不器用さも情けなく。


「ああ、なんだ、あれだつまり……」
「鶴丸様?」
「それだ、それ」


いまひとつ恰好つかない言い回しではあるが、勢いと流れに任せて結論まで一気に言い終える。


「俺のことは、呼び捨てで構わないからな」


言い捨てるような言い方をしておきながら、鶴丸は何故か気恥ずかしさを感じ、泣きたい気分になった。
たかが名前の呼び方を正すだけなのに、らしくない緊張感に襲われてしまった自分に、不本意ながら驚きを覚えてますます動揺をしてしまう。





「とにかく、主っ。美味い飯と呼び捨てで頼むな」












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