第1章 恋を詩え 風がさらう前に 【燭台切光忠】
「光忠・・・?」
心配そうに問いかける貴女の声が、もっともっと聞きたくて
「光忠っ・・・」
揺れる髪から零れ落ちる甘い香りが、まるで包み込むかのように舞い降りて
「ねぇ、光忠っ」
知っているんだ・・・ こうすると・・・
「――――きゃっ」
・・・ほらね・・・
目の前には、貴女の双眸が、驚きの色を隠せずに瞬いている。
黒曜石の様に、深く潤んだその瞳。
「もう、急に目を開けないでよ~」
驚きと安堵の双方を含む表情に、あってはならない親近感を覚えてしまう。
そう、決してあってはならない・・・この想い・・・
「・・・? どうしたの?」
一瞬の表情の翳りを察してか、再び心配そうな眼差しで覗き込む。その優しさに触れる度、心の底から想いが溢れ出してきてしまう。
堰き止めなくてはと強がる思考は、心と裏腹の言葉を紡ぐ。
「美桜様でも、その様に女性らしい驚き方をするなんて、意外過ぎて」
「失礼ね」
ついと少しだけ口を尖らせ、顔を背けるその拗ねる仕草も可愛くて
「冗談です」
悪いなとは思いながらも、堪える笑みは喉からよりも肩に表れてしまう。
「そうやって、すぐ人の事をからかうのだから」
そう怒った様な顔で言いながらも、どこか笑みを浮かべている貴女。
「申し訳ありません」
お互いがお互いの顔を見合わせて、どちらともなく笑みかこぼれる。
ふわりと香る、風が詠う。
貴女を、我が主を包み込むかのように優しく詠う。