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【刀剣乱舞】 顧恋抄 【短編集/R18含】

第1章 恋を詩え 風がさらう前に 【燭台切光忠】


今、こんなにも当たり前のように流れる穏やかな風なのに、いつかは貴女を連れ去って行ってしまうのだろうか。

胸を襲うのは、漠然たる不安・・・

だからこそ、このひと時の甘さに酔いたいと願う己とだからこそ、決して酔い浸ってはならないと戒める己がいるこの矛盾・・・

自分の中での曖昧な感情が総てを歪めてしまっているかのようで、現実を認めるのが血が流れ出るように痛くてたまらない。
今ここで、時が止まってくれたならば、この痛みも感じること無く安らぎの中に居られるのであろうか。

そう望む弱さこそが
決して逃げ場などの無い、無限の螺旋への入り口―――――


「光・・・忠?」

すぐ近くで、そっと揺れる黒い双眸。手を伸ばせばすぐに届く距離なのに、きっと、触れてしまえば壊れてしまう。
甘い想いに流される前に、自分自身で枷を作り出す。

「・・・美桜様、何か用があったのでは・・・?」
「あっ!!・・・もう、光忠が人の事からかうから、忘れちゃうところだったじゃない」
「僕の・・・所為ですか?」
「そうよ」

つんとした顔をしながらもその瞳は笑っていて、遊ばれてるなとすぐに判るのだが、その様にされても悪い気はしない。

「我が主、どうか御許し下さい」

ちょっとだけ申し訳なさそうな表情で告げ、上目使いで貴女を覗き見れば

「仕方が無いわね」

口調とは裏腹の、零れる笑みが其処にはあるのを既に知っているから


お願いだから・・・ 壊さないで・・・


何処かで叫ぶ、声が聞こえる―――――


「光忠。大切な話があるって、宗近が呼んでるわ」


どくん―――――


「宗近殿・・・が?」
「ええ、光忠の意見を聞きたいそうよ」
「・・・わかりました」

承諾の返事を聞いて満足したのか、貴女は一番の微笑を残して僕の視線をすり抜けて行く。
遠退く背中に、離されまいと必死に手を伸ばそうとする自分がいる。
出来る訳など、無いと判っているのに。


・・・貴女と僕の、決して埋まらない距離・・・


風に残る貴女の香りだけが、唯一、手に入れられることが出来る僕の自由。





どうして貴女は・・・ あの人のものなのですか―――――






END

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