第2章 情報の共有【Ⅰ】 小さな背中
銀時side
「血の匂いっつっても返り血で微量だ。普通の人なら気付きゃしねぇな。」
「それにお前は気付いたんだろ。」
大層な嫌味なこって。
銀時はふぅ、と息を吐きながら続きを話す。
______________銀時が言葉を紡ぐと、女は瞳だけをこちらに向けた。
その瞳は覚悟を決めた修羅の瞳。
かつての仲間と酷似していた。
「微かだが血の匂いがする。テメェただもんじゃねぇんだろ?」
それにほら、と言葉を続ける。
銀時はある一点を指差した。
「刀だな?この廃刀令の時代に。」
目と目を交えながら確かめるように言う。
静かに時が流れ、緊張が室内を満たすが、折れたのは女の方だった。
「さすが、伝説の攘夷志士様。」
「あァ?」
銀時は怪訝な顔をする。
反して女は長い睫毛を閃かせながら冷たく微笑んだ。先程とは違う、獣のように獰猛でありながら、花のように華やかで。
「貴方でしょう?狂乱の貴公子、鬼兵隊総督と同じくらい名高い白夜叉は。」
どこでそんなことを。そう問おうとしたがやめた。
今コイツに問うべきことはそんなことではない。確かめることではない。
「人違ェじゃねェか?」
「まさか。私は同志を信頼している故、100%正しいかと。」
成程、下調べしたやつは違うやつなのか。
銀時は小さく舌打ちをした。
どこからだ。
どこでそんな情報を手に入れた。
あの真選組でさえ、自分が名乗らなければわからなかったというのに。
そんな銀時の焦りをよそに、それに、と付け加えるように女は続ける。
「貴方が私の正体に気が付いたのと同じ……匂いがするのよ。」
銀時は肩を大きく跳ねさせた。
血の臭い。
それがまだ、銀時の体にまとわりついたまま剥がれていないということか。
銀時はひとりでに思う。
その間に、ふぅと彼女は息をはき、一度目をつむり、悲しげで儚いながらもはっきりと言葉を紡いだ
「決して赦されることのない罪の匂い。」