第16章 邪魔だ、どけ
銀時side
「夕時雨を知る人物がわっちの回りに二人いるということじゃ。」
またもう一度強い風が吹いた。
今度は連続してごぅごぅと吉原を包むように。
そしてその音に導かれるように、同時に月詠の眉間にシワがよった。
その表情に銀時は嫌な予感を覚える。
「一人は…死んでいる。もう一人も所在は知らん。」
やはり、と銀時は苦い顔を浮かべた。また消えつつあるひとつの手がかりに肩を落とす。
まるで、蜘蛛の糸のような危うさに、それでもたしかに繋がる糸の強さに彼女の半生の壮絶さが浮かぶ。
「そうか…残念だが…。名前を聞いてもいいか。」
すると、月詠の目の奥が濁り、鋭い意志が少しだけ霞む。銀時はそれほどまでに今の質問に力をいれていなかったため、気がつかなかったが。
月詠はそんな銀時を見つめた。自分を今は見ていないその瞳はまた誰かを救おうと動いているのだろうと思いながら。
「おまんらも知っとるやつじゃ。」
「…?鳳仙か?」
違う、と一言月詠は否定の言葉を放つ。躊躇いと興奮を抑えながら次の言葉を月詠は紡いだ。
「地雷亜じゃよ、銀時。」
地雷亜____________月詠の師匠。
月詠の尊さと高潔さに心酔したあの忍。
「よく覚えてはおらぬが、一度だけ吉原にアイツの友…いや、知り合いが来たことがある。そのときの客人が夕時雨、と確かにと言っていた。」
「確かか。」
その言葉に月詠は頷く。その自信が満ち溢れた表情にこちらが飲まれてしまうのではと思うほど。
そうなると、銀時の心に純粋な疑問が浮かぶ。
地雷亜___彼がなぜ春雨と繋がりを持っていたのか。
いつどこで、彼は春雨と繋がったのか。
銀時は一人、思案した。いつもは使わない脳を使って、共通点を探る。
けれど、思い浮かべる限り、千里との繋がりは見えてこない。
だめだ、情報が圧倒的に足りない。
銀時はそう判断し、一度思考することをやめた。今この不確定な状況で二人の繋がりを憶測だけで判断しても、それは推測の域を出ないから。
「もう一人は?」
銀時はまた月詠に問う。
今の地雷亜は彼女の言う死んだ人を指すのなら、もう一人は生きていることになる。
そちらの情報にかけた。