第16章 邪魔だ、どけ
銀時side
「夕時雨…。」
月詠は確認するように一度ゆっくり銀時の言ったことを繰り返した。一文字一文字味わうようにして言い、自らの記憶を探るように。
「表向きは遊郭だったが、内部は暗殺現場だったらい。何年か前にクーデターのようなもので無くなったらしいが…どうだ、なにか知ってるか?」
自分の話せるラインギリギリで銀時は言葉を繋げていく。しかし月詠は的を得ないような表情を浮かべたままだ。
「夕時雨、夕時雨か…。」と聞こえるか聞こえないくらいかの声で繰り返す。
「春雨の支配下に遊郭がある、そんな場所は他にないと聞いておったが…。」
「鳳仙にか?」
「あぁ…鳳仙…いや…鳳仙…?あの言葉は鳳仙ではなかったような…。」
遠い昔のことを探っているのだろう。口許に手を当てながらぼやきのように言葉を紡ぐ。
銀時はそんな月詠をみて、彼女が一本一本の糸を辿っているように思い、集中させようと押し黙った。
神楽も新八もそれに習う。
「夕時雨…鳳仙以外の…誰だ?このことを聞いた、人…は。」
必死に思い出そうとする月詠。
この様子だと言葉じたいになにか引っ掛かりがあるのか____________。
その時窓がガタン、と小さく揺れた。
何者かがそこを訪れたように沈黙の空間に突如現れた音は大きく響く。
少しだけ肩を跳ねさせる銀時たち。
驚く気持ちをおさえながら音のした方向を見る。
そこには数センチだけ開いた襖があった。
その奥には空に浮かぶ月と吉原の街中が見える。美しい夜景だ。
風が強く吹いたのだろうか。
先ほどまであれほど静かだったというのに。
「風…?」
すると、月詠がまた小さく呟いた。そして今度は先ほどとは違い、大きな目をさらに見開く。
金色の瞳が幼き頃の記憶を呼び覚まし、驚くように銀時を見る。
「なにか思い出したか!?」
銀時は月詠に詰め寄った。
その言葉が大きくなってしまったことには気づいていない。
月詠はその様子に一瞬怯み、今度はこちらが肩を跳ねさせた。一度だけなにかに怯えるように目を震わしたがすぐにいつもの調子に戻り、言葉を紡ぐ。
「夕時雨という単語と、吉原以外に春雨の支配下にある遊郭はないと聞いたのは別の人物じゃ。」
「…どういう?」
「つまりだな、銀時。」
ふぅ、と月詠は一度重たい息をはいた。