第9章 雨ときどき雹
桂side
弾かれたように、びくっ、と全身を震わせながら言葉を紡ぐ宗。
彼の様子がおかしいのは明白で、桂はゴクリと唾をのみこんだ。
少年のような、青年のような。
年を感じさせない声に何かしらの力が作用しているのがわかる。
_______なんっ……だそれ。
驚きに満ちた沖田の声が、言葉が桂の脳裏をよぎった。
まるで奇想天外なことに立ち会ってしまったかのような切羽詰まった声。
それが何を指しているのかあのときは分からなかった。
ただ、宗の声色でない言葉が紡がれ、丁寧な言葉だけがあの時は桂の耳に通信機越しに届いていただけ。
それが今、目の前にあることに桂は戦慄した。
あのときとは違って交互に浮かび上がる二人。
「堀りお越すつもりはない、ただ邪魔者は早く始末したい。」
「邪魔物を始末、それはなんですか?殺すということですか?それは無関係なヒトを手にかけるということですか。」
「無関係?どこが無関係だよ?神威の、コイツの姉貴を死に向かわせた一人の男の妹だぞ。」
「あの少女が兄と関係が浅いということは二人で一致したはずでしょう?それに白夜叉ももう関係ない。」
「こちとら関係がなくてもずけずけ入り込もうとするやつはさっさと」
「ずけずけ入り込まれる隙があるからでしょう?違いますか。」
同じ姿の人から、違う声で対話が繰り返される。現実的ではない光景に目眩がした。
ぐるぐると全く検討のつかない大きな力がその場を覆いつくし、彼らの思考を鈍らせ、痛みを増幅させていく。
悲しみと怒りとが混ざり合う複雑な響きを含んだ言葉が、刺のように吐き出されるたびに、じくじくとそれぞれの傷みを甦らせる。
「うるさいっ、出てくるな!」
「出てこないと対話が不可能でしょう、さっきからわざと刀を柄を掴んで対話をさせまいとしているくせに、出てほしくないなら今すぐ刀を強く握るのを止めなさい。」
「主はどっちだ!」
「理性的ではない宗は主と認めた覚えはありません。」
宗の瞳に衝撃が走る。
歯を食い縛り、眉を下げながら弱々しく肩をおとした。
「貴方が大切にすべきものをもう一度、胸に問うて下さい。」
少年の声が再度響く。
しかしそれが最後だったのか、宗の瞳の焦点が戻り、それと同時に理性が戻っていく。
ふぅと彼は息を吐き、額の汗を拭った。