第9章 雨ときどき雹
桂side
嵐のように銀髪の怠け侍が去れば、静かな沈黙が訪れた。
どちらともなく、言葉をかけづらい。
桂の心中にモヤモヤしたものが広がった。
先のことで謝罪したいのはもちろんだったが、銀時のせいでそんな雰囲気ではなくなってしまった。
先程は黒いもので覆われていて、けむりを吸うまいと息を凝らしていたが、今回は違って。
別の窮屈さと息苦しさを感じた。
「気になるか。」
突然、宗が言葉を発した。
驚きで肩を揺らせば、宗の冷たさのある視線が桂をとらえている。
「少し、な。」
戸惑いを隠しながらそう呟けば、「そうか。」と抑揚のない返事が聞こえた。
そしてまた、沈黙が空気を凍らせる。
しかし宗の何かの限界を越えたのか、
「わりぃ、話させろ。」
部下からの掛け布団をうけとり、千里にかけさせたあと、そう言う。
切り傷が所々ある無骨な手が、千里の細く繊細な髪に触れた。
そして低めの甘い声がその場に響く。
「そっちでもどうせ調べたんだろ、それ以上知られるのは時間の問題とみた、ったくお前ら伝説はどこにどんな情報持ってんだよ。真選組は分かるとはいえ、むしゃくしゃする。」
「……お前、少し性格変わってないか。」
「元々こんなんだよ。ただ、お前のその態度を見て少し信頼する気になっただけだ。」
その態度、それはどの態度か。
思い当たりのない桂は思案顔をするが、その態度に宗は呆れる。
その時びくっ、と宗が肩を震わし、眉根を寄せた。
顔が曇り、不機嫌な表情。
「俺は元々好き嫌いが激しい。」
そして突然彼は言った。
その言葉に部下を含めた多くのものが注目する。
「何をいっている。」
「うるせぇ、面倒くさい。」
「言ってることが支離滅裂だぞ。」
「黙ってろ、俺だってそう考えたさ。」
「おい、宗?」
「でも言わずになんの情報を得る?……いい加減にしろ!お前に何がわかる!」
激昂する宗。
その時桂はあることに気が付いた。
彼の瞳が虚ろなだけではなく、揺れていることに。
焦点があっていない、そういえばそうなのだろうが、それだけではなくて。
もしかして、俺は宗と会話が成立していない?
そんな疑問が桂の中に浮かんだ。
宗、そう名を呼ぼうとしたその時。
「彼女の過去を掘り出して何になりますか。」
少年のような声が響いた。