第9章 雨ときどき雹
銀時side
「気、失ったのか。」
掠れた声を絞りだし、宗に視線を送りながら問うた。宗の深い藍色の瞳が銀時を射抜く。
「こいつが気を失うのはよくあることだ。ったく、楽しい御遊戯の予定だったのに。そういやコイツは神威の妹だったか。」
聞いたことのない荒々しい口調。じりじりと燃える視線。肌に指すような声色。
神楽が無意識に銀時の服を手繰り寄せるように握った。銀時はそれに気がつくと二回、優しく神楽の肩を叩く。
それに気がついているのかいないのか、彼の視線は桂をとらえていた。
「桂、悪いが掛け布団を用意してもらえないか?」
「掛け布団?」
桂が訝しげな表情をする。
「ちょっと話があるから、帰るわけには行かねぇ。悪いけど、コイツはここに寝かせる、いいよな?」
「構わんが、千里が気絶している状態でそっちの三人の話は纏まるのか?」
桂の視線が銀時を含める三人に注がれた。
銀時はそれに気がつき、顔をしかめたあと、宗を真っ直ぐと見据える。
そして何度か躊躇ったあと、
「今度ここじゃねぇどっかで会ってもらえねぇか。」
と、問うように誘った。
神楽は銀時の言葉に目を見開き、少し怒りの色を見せたが、新八に留められる。銀特は新八に心の中で感謝し、ホッとしながらも答えを待った。
そうして数分。永遠に感じられるように長い沈黙が過ぎた。空気を裂くように、真っ直ぐな刃のような声がその場を支配する。
「どこで会うんだ。」
この数分間、彼はたくさんの事を考えたのだろう。裏切り、告げ口、逮捕、打ち首、最悪なことを想定して。確かにこの依頼を受けることは彼にとっては得はなく、損しか目に見えない。
それでもこれを受けたことは彼に何かしらの思うことがあるということ。
……けど俺はそんなことは考えてねぇ。
小難しい戯れ言はどうでもいい。
銀時の心には一切の邪心はなかった。
神楽が不満を露にする一方で、銀時は晴れ渡った空のように。
暖かな空気が色付くことはなくとも、まるで優しさを感じるように。
「今度の日曜。俺の行きつけの店で。」
_____待ってる。
そう付け加えて、銀時は彼らに背を向けた。
そして一瞥することなく歩き出す。
後ろは振り返らなかった。
小さな足音がついてきていることを確認して、ただ前だけを向いてその場をあとにした。