第9章 雨ときどき雹
銀時side
「何で知って……。」
何とかかすれた声で神楽が小さく問えば、千里は目を細め、神楽を睨み付けた。
「何で知ってるって、本人から聞いたの。」
「えっ……!?」
神楽の小さな体が動揺に震える。
会ったことがある、その言葉が何度も神楽な頭のなかを駆け巡った。
「神威はとても楽しそうにその事を話してた。本能的に血を求める種族だと、戦いに身を置くのは幸福なことなんだと。人を殺すことは人間が人を愛でるのと同じなのだと。」
宗はすべてを知っているのか、彼女と視線を合わせぬまま、真っ直ぐ前を見ていた。
「例え相手が誰であっても強者との戦いは楽しいのだと、生きていることを味わえるのだと。ご飯を掻き込みながら話していた。
自分を殺そうとしている人が目の前にいるのにも関わらず……ね。」
冷めた目に、強い殺意が露になった。
その瞳に神楽や新八までも引き込まれて、本当に確認すべきことを忘れる。
対して、彼女はその時のことを思い出しているのか、カタカタと震えながら言葉を紡ぎ続けた。
「今日来る客を殺しなさい、そう言われたのは初めてじゃなかった。むしろ手練れに成りつつあった。
いつも通り刀を磨いて。
いつも通り高い着物を来て。
いつも通り香を焚いて。
いつも通り化粧して。
最高の笑顔で彼を迎えた。」
とっさに銀時は神楽を引っ張り、胸の中に抱きとどめた。
彼女が居た場所の生々しさが銀時の脳にはっきりと写ったからだ。
聞かせてはいけない。
本能が彼を突き動かした。
「名前を聞かれて、いつも通り源氏名を使った。"野菊"それが私の源氏名だった。神威は興味がなさそうですぐにご飯を食べ始めたの。」
彼女が身を寄せていた場所。
彼女が身を寄せなければならなかった場所。
恥辱に耐え続け、守り抜こうと必死に闘った場所。
それは______春雨が管理する1つの人身売買の拠点のひとつ。
"夕時雨"___________遊郭だった。