第9章 雨ときどき雹
銀時side
切なさと怒りとが混ざりあった悲痛な声が響いた。神楽のまだ小さな両の拳が固く握りしめられ、震える。
「サド……沖田が今何してるか知ってるアルか?お前を探すために毎日毎日仕事をちゃんとこなしてるの知ってるアルか?怪我がどのくらいかわかってるアルか?公園でサボることなく毎日毎日っ。」
食い縛った歯の隙間から微かに吐息が漏れる。嗚咽にも似た心の叫び。
「お前を取り戻すためにっ……!!」
「それが何?」
瞬間、ぴしゃりと高い高い壁が神楽の前に立ちはだかった。絶対的で聞くことを許さない雰囲気。
神楽の顔がくしゃりと歪んだ。
大きな瞳に膜が張る。
しかしそれを振り払うかのように千里は言葉を紡ぐ。
「だから私にどうしろって言うの。」
千里の感情を必要以上に圧し殺した声がその場に響いた。その小さい顔に翳りを感じさせながら、長いまつげを震わせながら、感情の歯車を押し止めるように。
「どうすることもできないでしょ?私が行く道とみんなの行く道が違うんだもの。」
彼女の視線が自分の開いた掌に向けられる。
そこには何もないのに、憎むべきものを見るような焦がれる視線に銀時の心が震えた。
「他の皆じゃ私の思いは叶えられない。決定的に違うの。真逆なの。だったら人をはねのけてでも進むしかない。この手が穢れている限り。」
ヒリヒリとした痛みが銀時を襲う。
大きな溝と、越えられない壁が、小さな痛みとなって伝染していく。
銀時には彼女が見ていたものがわかってしまった。
穢れてしまった自分の手。
血に染まった自分の手。
心に残る罪悪感と、虚無感。
「私にはもう宗と歩む道が全てなの。」
静かに、けれどしっかりと言い放つ。
自分は間違ってなんかない、正しいことをしているんだと堂々と。
「人殺しアルよ!何を寝ぼけたこ」
「貴方の兄も人殺しじゃない。」
その時、その言葉に神楽の瞳が絶望に染まった。アクアマリンのような青い大きな瞳が行き場をなくした赤ん坊のように弱々しくなる。
言葉がつまって何も言えない神楽。
そして同様に新八も銀時も、驚きを隠せないでいた。
しかしなお追い討ちをかけるように、喉笛に噛みつくように、彼女は急所を狙い続ける。
「夜兎族には親を殺して一人前、そんな風習があるんですって?あんたの兄はそれを実行したんでしょ?」