第9章 雨ときどき雹
銀時side
「銀さんっ、どういう……!?」
「あ"ー、聞くな聞くな。」
銀時は新八の咎めを軽くあしらい、彼を見つめた。視線と視線が絡み合い、火花が散る。
「"梔子"(くちなし)だったか?」
「源氏名のことですね?」
ふっ、と自嘲気味に微笑む宗。
瞳に宿る哀しみの陰は奥深く、神秘ささえ感じられる。
獰猛な獣を圧し殺す理性を兼ね備えていて。
「花言葉は"喜びを運ぶ"だったか?」
「"洗練"という意味もありますね。」
梔子(くちなし)。
初夏の風に乗る優しげな臭いが特徴的な白い花。
花言葉は"喜びを運ぶ"、"洗練"。
「口が固い方ではないですからいつか誰かに言うと思ってました。」
「その様子だとそんなに大事にしてやってないな?」
「俺が本気じゃない女に求めるのはシビアさと後腐れのなさです。」
あの女は兼ね備えていた。金さえ渡せば、体の欲求さえ満たせれば言い女でしたから。
あの女、と宗が称したのは銀時が場馴れしていない場所に体を売って住む女の事だった。
つまり遊女。
その中でも、男に体を売ることを自ら望む珍しいタイプの人間。
美しい黒髪を上げ、艶やかに微笑む女。
名を____梔子。
病的な瞳が今でも脳裏によみがえる。
「……アイツにはなにもいっていないのか?」
「言ってありますよ、けどね梔子はアイツと違って弱者を虐めるそんな人間です。俺らが一番嫌う属ですよ。」
吐き捨てるように言う彼の言葉に疑いを持つ。
ならなんで協力を依頼したんだか。
「それなのに利用価値があったと?」
訝しい表情を浮かべ問う。
彼は渋々といった感じで答えを紡いだ。
「……えぇ、だって俺たちには持っていないものを持ってることになりますからね。」
どうやら大分屈折した信念を持ってるらしい。そしてその中でも自分が必要で足りない力を知っている。
「変なやつだな。」
「それははじめて会話したときからご存じでしょう?」
はじめて会話したとき、それを指しているのは恐らく千里が依頼しに来たときだろう。
前々から分かっていたとはいえ複雑な思いが痛みと共に交錯する。
「それで?用件はなんですか?」
その時、宗がさも当たり前のように問うてきた。