第9章 雨ときどき雹
銀時side
「止めないでやってくれませんか。」
凛とした、切なさを含んだ声が銀時の耳に届いた。驚きを隠せぬまま声の主を見れば、宗が愛しそうに千里の姿を見ている。
その姿にどくりと心が動いた。
「殺すという前提のない戦いはアイツにとって久しぶりだろうから。」
女顔負けの色気を醸し出す彼は、長い睫毛を震わせながらそう言葉を紡いだ。
その声は何かを圧し殺した悲痛な響きを含んでいて。
「……怪我するぞ、そっちのねぇちゃん。」
「構いませんよ、刀傷じゃなければ。」
なんとか言葉を発すれば、当たり前のように言い返す。
真摯な目が銀時を捉えれば、銀時は長いため息をついた。
そして、宗の隣に腰を下ろす。
「どっちが勝つか賭け事でもすっか?」
銀時はそう言いながら、ちらりと胸元からパフェの半額券を取り出す。
先日手に入れた、常連にしか配られない半額券。配ってもいいことは亭主が言っているのを小耳に挟んだ。
その時は誰がこの券をやるか、俺にくれの勢いだったが分からないもので。
「ほれほれ、甘いもん嫌いか?」
まさかこんな風に賭け事に使うことになるとは……。
銀時が挑発するように言えば、宗は嘲笑うように鼻で笑った。
「いいんですか、好物でしょ?」
「ほほー、よくご存じで。」
「そんなに依頼が少ない訳じゃない。それなのに部下に給料も払わない。ならば貴方の稼いだお金はどこにいっているのかと思ってまして。」
すべて貴方の胃袋のなかですか?
爽やかな笑みを浮かべながら嫌みを放つ宗。
この口調……やっぱり腹立つな。
「人の事好き勝手調べるだけじゃなく言いたい放題だな。」
紅い瞳を細め、銀時も口角を上げた。
凍てつくような冷気がその場を包み込み、得たいの知れない黒々とした闇が広がっていく。
「よくいいます、お互い様でしょ。人の手駒から口を割らせた上に真選組からも情報を得て。」
その言葉に新八は驚きの表情を浮かべたあと、銀時を見つめた。
銀時は予想通りだったのか、表情も雰囲気も変えず笑う。
「知ってやがったか。」
「えぇ、知っていましたよ。全く骨抜きにしてくれましたね。女慣れをしているのは存じていましたが。」
「大変だったぜ?あの姉ちゃん。うまく調教できてたぞ。」
「誉められている気がしませんね。」