第9章 雨ときどき雹
銀時side
無駄がなく、迷いのない美しい動き。
野性的な神楽とは決定的に違う。
理性的で、それでも狂気を孕んでいて。
桂をちらりと見れば複雑そうな表情を浮かべていた。
その意味は銀時にもわかっている。
ヅラ、本当はなぜ俺がここに来たか薄々気が付いているんだろう。
お前が俺と同じことを思わないはずがない。
お前がアイツのことを思い浮かべないはずない。
ふぅ、と銀時は息を吐いた。
視線を戻せば吹っ飛ばされた神楽が起き上がり、また攻撃を仕掛けようとしているところ。
神楽は先ほどの投げを何とも思っていないのか、動きは全く鈍っていない。
対して千里も無邪気に頬を緩めている。
「ぱぁつぁん、止めるぞ。」
「えっ!?」
「戦わないっつー約束で神楽は付いてきたんだ。それにあいつ自身あの女に恨みはあっても本人の姫様がそれを望んでない。」
「で、でも。」
神楽ちゃんは納得しないんじゃ……。
困ったように肩を下げる新八。
「納得するしないの問題じゃねぇよ、俺が動きを止めるからそっから取り押さえてくれ。」
銀時は新八の返事を待たずに立ち上がった。
どこかの学校の指定ジャージである彼の服が畳にこすれ、柔らかな音をたてる。
そして銀時は一人考えた。
すぐに止めるとしても今の神楽相手では無傷ですまない可能性は高い。
彼女の言うようにまだ神楽は子兎だが、だからといって牙があるわけじゃない。
なので、
「神楽ーやめろー。」
とりあえず声をかけてみる。
「うぉぉぉぉっっっ!!」
返ってきたのは雄叫び。
これは返事としてカウントするか否か。
結果、返事ではないと判断した銀時はもう一度声をかけた。
「神楽ちゃーん。約束が違いますよー、今すぐ拳を納めなさーい。」
聞こえていないフリをしているのか、それとも本島に聞こえていないのか。
神楽は拳を千里に向かって振り上げた。
「うーん?神楽ちゃーん!おーい!やめてくださーい!」
「銀さん、止める気ないですよね?」
うるせぇー、俺だって止めたくないわ。
新八のつっこみに内心呆れる。
それでも、致し方ないと心に決めた銀時は神楽を見据えた。
無傷で帰ってこれますように。
そう思い、足に力を込めたとき________。