第9章 雨ときどき雹
千里side
千里は虚ろな瞳で空を窓から見上げた。目を覚ましたのは半時前のこと。
頭が重く、目は腫れぼったかったが、何とか起き上がった。
「……もし、も……誰かが……君の傍で……泣き出しそぅ……になっ……たときは、必ず僕が……傍にいて、支えてあげ、るよ…その肩を……。」
思い出の歌を口ずさみ、悪いことを考えないようにする。千里は視界がにじみ、声が掠れても歌い続けようとした。
しかしそれを制止したものがひとり。
ふわりと千里の肩に温もりが広がり、千里の大好きなにおいが鼻をくすぐる。
「……それは、悲しいときに歌う歌じゃない。」
千里の首に優しく宗の逞しい腕がまかれる。千里はその腕をぎゅっと掴みながら、確かめるように名を呼んだ。
「そ、宗……。宗っ……そ、うっ……。」
涙を何とか堪えながら、何度も彼の名を呼ぶ。
そうして少ししたあと。
千里が一通り落ち着いたのを宗は確認し、言葉を紡いだ。
「自分を責めなくていい、お前のせいじゃない。」
俺のせいだ、と宗は言葉を続けた。
それに対して違う、と千里は首をふる。
「私が、取り乱したからっ……!私が自分をコントロールできなかったからっ……!私がっ、私がっ……!」
「千里、違う。……違う。」
宗は千里の体制を入れ換えさせ、こちらに向かせた。
瞳には膜がはりつめて今にもこぼれそうで。
ずきりと宗の胸が痛んだ。
「……宗、私っ……。」
「……分かってる。」
真摯な瞳で宗は千里を見つめた。
一粒、千里の瞳から涙がこぼれ落ちる。
「やめたりなんかしない。捨てたりなんかしない。約束は守る。」
千里の瞳に安堵が浮かんだ。
彼女が危惧していたことは宗が手を引くことだったのだ。
千里は涙を適当に両手で無造作に拭った。宗はその姿に笑みをこぼす。
「今から桂に会いに行く。一緒に来るよな?」
彼の問いに千里は力強く頷いた。