第9章 雨ときどき雹
桂side
あれから、二日が経った。
今日はあの日の出来事が嘘だったかのように晴天。
太陽はきらきらと輝き、皆を平等に照らしていた。
「……宗からの連絡は。」
桂は近くにいたエリザベスにそう問う。エリザベスは立て札に「まだです。」と書き記した。
それを一瞥して桂は深くため息をついた。
あの日、少し話したあと自然な流れで解散になった。
これからも同盟を組み続けるのか、それさえも確認をしないまま。
千里が目覚めたのかの連絡もない。
もうあちらは此方と組む気はないのだろうか。
「エリザベス……あの情報を引き出したやつは行方をくらませていると言ったな。」
"はい。"
「真選組の一派だったのか?」
"分かりません、まだ。ただ真選組ではないと思います。"
エリザベスの自信あり気な答えに桂の肩はピクリと反応する。
「何故?」
桂がまた問えば、エリザベスはゆっくりと自分の考えを述べていった。
プラカードが積み重なるのも構わず。
"彼はまぁまぁの古株でした。しかし、彼が入ってきた時期はあの時です。"
________あの時?
身に覚えのない桂は眉根を寄せる。
しかしエリザベスは淡々と書き記した。
"江戸が炎で焼き払われるかもしれなかったあの事件からです。桂さんも覚えているはずです、忘れるはずがありません。
生き物のような刀を。
月に照らされ怪しく光る刀を。"
ハッと桂が肩を揺らし、目を見張る。
「まさかお前は……あいつの仕業だというのか。」
"赤根崎は徳川でも喜々側だと聞きます。可能性は高いと思われます。"
「それは分かる、でもアイツにとってそんなに赤根崎は利用価値があるのか?」
"人身売買は春雨とも繋がっている、そう考えては如何でしょうか。"
それに、とエリザベスは付け加えた。
"彼は本当に妖刀の存在を諦めていたのでしょうか。"
桂の脳裏に彼女と彼が浮かび上がる。
そして、あの刀も。
"本当はまだ探していたのではないでしょうか、獰猛な獣を、血に飢える獣を。"
エリザベスの重たい言葉。
勿論それらを指しているのはあの二人。
支え合い、憎むことで生きてきた獣たち。
「晋介……っ……!」
目には目を。
歯には歯を。
獣には________獣を。