第8章 教えてくれたのは君だった。
宗side
「こいつだけだったんだっ……!」
あの日、あの時から。
返り血を浴びて呆然としていたあの日から。
何人も何人も復讐のために殺してきて、何人も何人も自分の殺す姿を見てきた。
けれど誰もなにも言わなかった。
「こいつだけだったんだ、礼を言ってくれたのはっ……認めてくれたのは。」
びゅうっと冷たい風が宗の頬を撫でる。
まるであのときの自分の心のようだと宗は思った。
愛など忘れてしまったあの頃。
全てを消し去りたいと願ったあの頃。
憎むことで精神を保っていたあの頃。
「教えてくれたのは……こいつだけだったんだ……。」
千里だけだったんだ……!
独り言のように呟く言葉に返すものは誰もいない。
ただ絞り出される言葉に胸を痛めるだけ。
お世辞にも美しいわけでもなかった。
お世辞にも優しいわけでもなかった。
天使なんておこがましい。
死神がお似合いだ。
けれどそれがあのときの宗にはどうしようもなく心地よかった。
自分のように穢れてきた。
自分のように人を殺してきた。
自分のように守りたい人がいた。
_________自分のように守れなかった。
自分のように全てを憎んだ。
自分のように、自分のように。
まるで鏡を見ているようだった。
「千里っ……!」
____________あぁどうかこれ以上俺から何も奪わないでくれ。
もしも願いを聞き入れてくれるならどうか幸せな死を。
__________________二人で一緒に。